
鴨ヶ浦の岬の先端に立ったとき、目の前に「二つの海」があった。
外側は荒れていた。日本海の波が岩に叩きつけ、しぶきが顔にかかる。 岩礁の内側に回り込むと——水が嘘のように静まり返り、海底まで透き通って見えた。
同じ場所なのに、20メートルも離れていないのに。
「なんでこんなに違うの?」
その問いに答えが出るまで、この日はずっと地形を読み続けた。
まず地図を見てほしい — 能登半島の「二面性」
能登半島には、性格がまるで違う2本の海岸線がある。
| 外浦(そとうら) | 内浦(うちうら) | |
|---|---|---|
| 向き | 北西・日本海側 | 東・七尾湾側 |
| 波 | 冬は荒波・崖地形 | 穏やか・砂浜が続く |
| 代表スポット | 白米千枚田・鴨ヶ浦・能登金剛 | 和倉温泉・九十九湾・七尾市街 |
今回歩いたのは、まず外浦——日本海の荒波をまともに受ける側だ。

対して内浦は、七尾湾に抱かれた静かな港町の顔を持つ。

この日の旅は、父母と妻、私の4人旅。 父は以前からブラタモリが好きで、石川の地層の本を片手に旅に参加していた。 まず向かったのは、外浦の迫力を真正面から受ける能登金剛だった。
能登金剛 — 波が岩を彫ったギャラリー
能登半島のちょうど中央、志賀町の海岸に広がる能登金剛は、 波の浸食が生み出した奇岩と洞窟が連続する海岸線だ。 1.5kmほどの遊歩道を歩くだけで、地形の教科書が一冊めくれる。

巌門 — 岩を貫いた波の証拠
巌門(がんもん)は、波が岩盤を削り、貫いてできた天然のアーチだ。 訪れた日は満潮直前で、波が洞窟に入るたびに「さぱーん!」と反響した。 奥まで遊歩道が伸びているが、この日は波が高く、途中で引き返した。
クリックで拡大表示
軍艦島(ぐんかんじま)
能登金剛のもう一つの顔が、海に突き出す軍艦島。 艦橋と船体のように見える岩礁で、名前のとおり、戦艦そのものの姿をしている。 これも、岩盤の「削られなかった硬い部分」だけが残った結果だ。

接吻トンネル — 崖の合間に差し込む夕日
海沿いを北上する途中、接吻トンネルと呼ばれる素掘りのトンネルがある。 狭い岩の隙間をくぐる形状で、向こう側に海と夕日が抜けて見えた。
中を歩いて抜けることもできるらしいが、手彫りの古いトンネルだ。 震災リスクを考えて、この日は撮影だけして引き返した。

ちなみに同じ能登金剛エリアにはヤセの断崖・義経の舟隠しもある。断崖の名前ほどの高さではないので過度な期待は禁物だが、外浦のダイナミックな地形を短時間で味わえるルートとして便利だ。
能登の顔「白米千枚田」 — あの急傾斜の理由
能登金剛を後にして、さらに北上。 日本海を背景に、急斜面に棚田が段々と連なる——能登を代表する絶景、 白米千枚田(しろよねせんまいだ)に着く。

棚田は「平地が作れない場所で生まれた農業の知恵」だ。
能登の外浦は、山が海のすぐそばまで迫っていて、平地がほとんどない。 この地形を作ったのも、新第三紀以降の隆起と日本海の浸食の組み合わせだ。 隆起した地盤が波に削られ、急斜面のまま海岸線になった——だから平地ができない。

ブラタモリでも紹介された「2番目に小さい田んぼ」を探して、急な石段を上った。 ふくらはぎに効く。でも登った甲斐はあった。

| 所在地 | 石川県輪島市白米町 |
| 駐車場 | 道の駅「千枚田ポケットパーク」(無料・大型) |
| 注意 | 急な石段あり。歩きやすい靴で |
| 混雑 | 10〜3月のイルミネーション期間は夕方から渋滞注意 |
「二つの海」の正体 — 鴨ヶ浦
千枚田から車で東へ。ここでいよいよ、冒頭の疑問に戻ることになる。
鴨ヶ浦の岬の先端に立つと、20メートルで海の表情が劇的に変わる。 なぜか。

答えは岩礁の形にある。外海に向かって突き出た岩が天然の防波堤になっていて、 日本海の波を受け止めている。岩礁の内側は「陰」になり、外の荒波がそのまま入ってこない。 だから同じ場所に、荒波と静水が並んで存在する。
これはそのまま、能登半島全体の縮図でもある。 外浦(日本海側)が荒れていて、内浦(七尾湾側)が穏やか——という大きな対比が、 鴨ヶ浦の小さな岬の上でそのまま再現されていた。
岩をよく見ると、貝がいた
岩礁を歩いていて、足元に目が止まった。
岩の表面に、貝殻の形がくっきりと刻まれている。触れると、岩の一部だ。 ただ乗っているのではなく、岩の中に溶け込んでいる。
化石だ。
ブラタモリを見ていなければ、きっと素通りしていた。 これが「もと海の底だった岩」の証拠で、数百万年前に生きていた貝が 地層の中に取り込まれ、今も岩に残っている。

父が隣で、スマホで撮りながら「これすごいな」と何度も呟いていた。 もちろん私も嬉しい。でも、父が嬉しそうにしているのを見ると、倍嬉しくなる。

| 所在地 | 石川県輪島市。国道249号線沿い |
| 駐車場 | 鴨ヶ浦駐車場(無料)/ 普通車10〜20台程度 |
| おすすめ | 干潮時。岩礁を広く歩ける |
| 注意 | 岩場は滑りやすい。歩きやすい靴で |
この日の夕食 — 食事処わじもん
この日の宿は輪島市内。夕食は本来別の店を予約するつもりだったが、時間にゆとりがあったので、 ホテルで父が見つけてくれた居酒屋「わじもん」に4人で向かった。
Googleのクチコミはほぼゼロ。半信半疑で暖簾をくぐったが、 結果、全員が「ここは人に教えたい」と口を揃えた。


フグの唐揚げ、能登牛の炙り、タチウオの焼き魚、本日の刺身——すべて地のもので、どれもハズレなし。 訪問時はまだGoogleのクチコミがなかった、穴場的な一軒だった。
| 所在地 | 石川県輪島市内 |
| 駐車場 | 近隣のコインパーキング利用(輪島市内に複数あり) |
| 予約 | 事前予約推奨 |
翌朝、内浦へ — 九十九湾
翌朝、能登を離れる前にもう一つだけ寄り道をした。 外浦の荒波とは打って変わって、鏡のように穏やかな水面が広がる九十九湾(つくもわん)。 地形好きなら外せない、内浦を代表するリアス式海岸だ。
…というのは後から知ったことで、実際には父に引っ張られて行ったのが正直なところだ。
スマホで岩の写真を撮りながら、その場で論文まで調べ始めた。目がきらきらしていた。 少年のようにはしゃぐ父を見ているだけで、こっちまで嬉しくなる。
地質の話ができる旅は、二度楽しい。
| 所在地 | 石川県鳳珠郡能登町 |
| 駐車場 | 遊歩道入口近く(無料) |
| 見どころ | 海面すれすれの遊歩道から透明な湾内が覗ける |
地質情報の参照: 産総研地質調査総合センター「地質図Navi」、国土地理院地形図 /「〜とされている」と記した箇所は、学術的に確定した情報ではなく通説・推定を含みます。