📅 取材時期:2025年7月
新千歳空港でレンタカーを借りて、伊達方面へ車を走らせていたときでした。
道の正面に、ふたつの大きな山が、ぬっと現れたのです。
ひとつは、どっしりと大きくゴツゴツした山。
そしてその手前に、赤茶けた、丸くこんもりした小さな山。
「でかーーい!」
思わず妻と声をそろえてしまいました。
あとで知るのですが、あの赤い山は、たった80年ほど前に、畑の中から生まれた山でした。
なぜここに、こんなに新しい山があるのか。
その疑問が、この2泊3日のあいだ、ずっと頭の片隅に残ることになりました。
まず、洞爺湖という湖の「正体」
宿への道すがら、洞爺湖を見渡せる場所で車を停めました。
青く広い湖です。
ところが、よく見ると——その湖の真ん中に、緑の山がぽっかりと浮かんでいます。
湖に島があるだけなら、めずらしくはありません。
でも、ただの島ではなく、こんもりとした「山」が浮かんでいるのです。
この「中島(なかじま)」と呼ばれる山こそ、洞爺湖がどんな湖なのかを物語る、いちばんの手がかりでした。
カルデラとは、大量のマグマが一気に噴き出したあと、空っぽになった地下に地面が陥没してできる、大きな「くぼ地」のことです。
その円いくぼ地に水がたまったのが、洞爺湖だとされています。だから湖の形は、まるくお椀のようになっています。
では、なぜそのくぼ地の真ん中に山が浮かんでいるのか。カルデラができたあとも火山活動は続き、くぼ地の中で新たにマグマが盛り上がって山になった——それが中島の正体だとされています。
つまり洞爺湖は「巨大噴火の跡地」であり、中島は「その跡地で再び生まれた火山」。湖そのものが、火山の歴史を映す鏡なのです。
この「火山がつくった湖」という一点が、これから巡る昭和新山も、有珠山も、室蘭の断崖さえも、すべてつなげていくことになります。
それに気づいたのは、旅の最終日、空の上からでした。
| 所在地 | 北海道虻田郡洞爺湖町・有珠郡壮瞥町ほか |
| 特徴 | 約11万年前の巨大噴火でできたカルデラ湖。中央に中島 |
| まわり | 南の縁に有珠山・昭和新山。展望台やサイロ展望台から一望 |
昭和新山 — 畑から生まれた、赤い山
宿に向かう前に、まずあの赤い山の足元へ行きました。
昭和新山です。
近くで見上げると、赤茶色の岩肌がむき出しで、表面のあちこちから白い煙がゆらゆらと立ちのぼっています。
山が、今も熱を持って息をしているのです。
これがほんの80年ほど前に、何もない畑だった場所だと聞いて、あらためてぞくっとしました。

当時、このあたりは麦畑でした。地下のマグマが地表を押し上げ、平らだった畑が少しずつ盛り上がっていったとされています。
やがて、ねばり気の強いマグマがそのまま固まりながらせり上がり、ドーム状の山になりました。これを溶岩ドームと呼びます。
赤茶色をしているのは、デイサイトと呼ばれる溶岩が高温で焼けて酸化したためだとされています。
この一連の隆起を、地元の郵便局長だった三松正夫さんが克明に観察し、記録に残しました。山がどう生まれ育つのかを示す貴重な記録として、世界的にも知られています。
平らな畑が、数年で一つの山になる。
地球が動く速さは、私たちが思うよりずっと速いのかもしれない、と感じました。
なお、この赤い山の全体像は、最終日にヘリコプターから見ることになります。
足元から見上げる姿と、空から見下ろす姿。
そのギャップが、この旅のひとつの楽しみになりました。
すぐ隣には昭和新山熊牧場があり、子グマがわちゃわちゃと転げ回っていて、つい足を止めて見入ってしまいました。
| 所在地 | 北海道有珠郡壮瞥町昭和新山 |
| 駐車場 | 山麓に駐車場あり(有珠山ロープウェイと共通) |
| 備考 | 今も噴気を上げる。隣に昭和新山熊牧場 |
有珠山ロープウェイと銀沼火口 — ゴツゴツした活火山の素顔
昭和新山のすぐそばから、ロープウェイで有珠山(うすざん)の上へ向かいました。
料金は正直そこそこしますが、夏でもひんやりと涼しく、登るにつれて眺めがぐんぐん開けていきます。
山頂の展望台から見えたのは、銀沼火口(ぎんぬまかこう)でした。
ゴツゴツと荒々しい岩肌が、すり鉢のように落ち込んでいます。
緑に覆われた優しい山ではなく、まだ地肌がむき出しの、生々しい山。
「これが現役の火山か」と、思わず見入ってしまいました。

特徴は、数十年ごとに噴火を繰り返してきたこと。20世紀以降だけでも、1910年・1943〜45年(昭和新山)・1977年・2000年と、たびたび活動しています。
有珠山のマグマはねばり気が強く、火口の近くで盛り上がって固まりやすいとされています。だから昭和新山のような溶岩ドームができたり、山肌がゴツゴツと荒々しくなったりするのです。
繰り返し噴火するからこそ、緑に覆われきらず、地肌のむき出した「若い山」の表情が残っているのだと感じました。
ゴツゴツして大きく、近づくほど迫力がありました。
きれいに整った山より、こういう荒削りな山のほうが、地球の力を直に感じられる気がします。
| 所在地 | 北海道有珠郡壮瞥町昭和新山 |
| 駐車場 | 山麓駅前に駐車場あり(昭和新山と共通) |
| 注意 | 山頂は夏でも涼しい。羽織るものがあると安心 |
| 備考 | 展望台から銀沼火口を見渡せる。火口原展望台までは少し歩く |
西山山麓火口散策路 — 噴火で寸断された町の道
次に向かったのは、西山山麓火口散策路(にしやまさんろくかこうさんさくろ)。
ブラタモリで見た場所で、ぜひ自分の目で見たいと思っていました。
絶景という言葉とは少し違います。
正直に言えば、少しお勉強っぽい場所です。
でも、歩いてみて「おお……」と声が出ました。
かつて人が普通に車を走らせていた町道が、ぐにゃりと持ち上がり、ひび割れ、途中でぷっつりと寸断されているのです。
アスファルトが波打ち、まるで地面がふくれ上がったまま固まったかのようでした。

地下のマグマが上がってくると、地面がふくらみ、断層がずれて、町道はこのように寸断されました。
注目したいのは、このとき人的被害がなかったことです。噴火の前に火山性地震などの前ぶれがあり、行政と研究者の連携で住民が事前に避難できたとされています。
「噴火を予測し、逃げて、命を守った」その実例が、ここに遺構として保存されています。
洞爺湖・有珠山の一帯は、火山と人がどう共生してきたかを学べる場所として洞爺湖有珠山ユネスコ世界ジオパークに認定されています。
危険な火山のすぐそばで、人々が暮らしを続けてきた。
その緊張感と知恵が、寸断された一本の道から伝わってきました。
| 所在地 | 北海道虻田郡洞爺湖町 |
| 駐車場 | 散策路入口に駐車場あり |
| 見どころ | 2000年噴火で隆起・寸断された町道と火口群 |
| 注意 | 屋外を歩く。歩きやすい靴で。冬期は通行不可 |
道中に立ち寄ったレークヒル・ファームのジェラートも記しておきます。
ホワイトクリームとスイートコーンを選びましたが、コーンの甘みがしっかりしていて美味しく、ミルクパイも上品な味わいでした。
ザ・ウィンザーホテル洞爺 — 湖を見下ろす眺望のリゾート
この日の宿は、湖を高台から見下ろすザ・ウィンザーホテル洞爺。
2008年のG8サミットの会場になったことで知られる、高級リゾートです。
部屋は洞爺湖ビューで、本来なら中島まで見渡せるはずでした。
ただ、正直なところを書きます。
チェックインで30分ほど待たされ、部屋に着く頃には湖がガスってしまい、肝心の中島は見えませんでした。
天候ばかりは仕方ありませんが、お値段を思うと、サービスがもう一歩だと感じた場面もありました。
それでも、翌朝に窓際の席でいただいた朝食は、気持ちのよいものでした。
フレンチトーストはとろとろで、湖を眺めながらの食事は、さすがのロケーションです。

| 所在地 | 北海道虻田郡洞爺湖町 |
| 特徴 | 湖を見下ろす高台のリゾート。2008年G8サミット会場 |
| 朝食 | 湖を望む窓際席。フレンチトーストなど |
| 注意 | 湖は天候でガスりやすい。眺望は運も影響する |
洞爺湖汽船クルーズと中島 — 湖の上から、カルデラの真ん中へ
2日目は、うってかわっての好天でした。
洞爺湖汽船に乗って、湖の真ん中に浮かぶ中島へ向かいます。
船が岸を離れると、まず驚いたのは、昨日泊まったホテルがずいぶん高い場所にあると分かったことでした。
湖の上から見上げると、高台のリゾートだったのだと改めて実感します。
振り返れば、遠くに羊蹄山(ようていざん)——「蝦夷富士(えぞふじ)」とも呼ばれる、美しい円すい形の山も見えました。

中島に上陸して、森の散策コースを歩きました。
一歩入ると空気がひんやりと変わり、どこかでキツツキが木を叩く音が響いています。
自然のパワーがそのまま残っている、静かな森でした。
そして、帰りの船がいちばん気持ちよかったのです。
甲板に出ると、風が頬をなで、ウミネコが船と並んで飛んでいました。
湖の水は驚くほど澄んでいて、青さがどこまでも続いています。
つまり今、私たちは「巨大噴火でできたくぼ地(湖)」の真ん中に立つ「あとから生まれた火山」の森を歩いている、ということになります。
湖の上からは、湖を取り囲む山々がぐるりと連なって見えました。あの円い縁こそ、カルデラのへりだとされています。
湖の上にいると気づきにくいのですが、私たちは実は、巨大な火山の真ん中にぽつんと浮かんでいたのです。
火山の真ん中で、こんなに穏やかな時間を過ごせる。
それもまた、洞爺湖の不思議な魅力でした。
| 所在地 | 北海道虻田郡洞爺湖町(洞爺湖温泉の桟橋から発着) |
| 所要 | 中島往復のクルーズ。中島では森の散策コースを歩ける |
| 見どころ | 甲板からの眺め・ウミネコ・羊蹄山・湖の透明度 |
わかさいも本舗の「いもてん」 — 揚げたて、中に塩昆布
湖畔のおやつに、わかさいも本舗の「いもてん」をいただきました。
実演販売で、目の前で揚げたてを手渡してくれます。
ひと口かじると、外側はほんのり甘く、ホクホク。
そして中から、しょっぱい塩昆布が出てくるのが面白いところでした。
甘さの中に塩気がきいて、つい二つ目に手が伸びます。
旅先のちょっとした名物に出会えると、それだけで気分が上がります。

| 所在地 | 北海道虻田郡洞爺湖町洞爺湖温泉 |
| 名物 | 揚げたての「いもてん」(中に塩昆布) |
| 備考 | 実演販売あり。湖畔の散策途中に立ち寄りやすい |
室蘭・絵鞆半島 — 火山の岩がつくった断崖の海岸
午後は、白鳥大橋を渡って室蘭(むろらん)へ足を延ばしました。
室蘭の先にある絵鞆半島(えともはんとう)の海岸が、この日のもうひとつの目当てです。
まず立ち寄ったのが、有名な地球岬(ちきゅうみさき)。
白い灯台の向こうに、断崖と広い海がどこまでも広がっています。
「地球岬」という雄大な名前は、じつは水平線が丸く見えるから、ではないようです。
アイヌ語に由来する地名(断崖を意味する言葉とされます)に、「地球」という漢字を当てたもの——いわゆる当て字だとされています。
そう知ると、雄大な眺めに、土地の古い記憶が重なって見えてきました。

そこから海沿いを進むと、トッカリショ展望台へ。
ここがまた迫力でした。
おにぎりのように尖った岩が海に突き出し、その足元を青い海が洗っています。
岩と海と、崖の上の緑——色のコントラストが見事でした。
さらに足を延ばしたイタンキ浜では、岩肌にくっきりとした地層の縞が現れていて、思わず近づいてしまいました。
砂や泥の層が、何枚も重なって斜めに走っています。

地球岬やトッカリショの切り立った断崖は、硬い火山岩が日本海の波に削られてできたものだとされています。硬い岩ほど崩れにくく、急な崖として残ります。
イタンキ浜で見えた縞模様は、砂や泥が海底に積もって固まった地層です。大地の動きで傾いたため、層が斜めに走って見えます。
展望台のそばでは、ほかの岩を板状に貫いた岩脈(がんみゃく)らしき筋も見られました。岩脈とは、地下から上がってきたマグマが岩の割れ目に入り込んで固まったもの。ここでも、根っこにあるのはやはり火山の活動でした。
絵鞆岬の展望台からは、海の向こうに有珠山と昭和新山、さらに奥に羊蹄山まで見えました。
火山の島から火山の半島へ、景色がぐるりとつながった瞬間でした。
| 所在地 | 北海道室蘭市(絵鞆半島の海岸沿い) |
| 駐車場 | 地球岬・トッカリショなど各展望台に駐車場あり |
| 見どころ | 断崖と灯台・尖った岩・イタンキ浜の地層 |
| 注意 | 崖や岩場は滑りやすい。柵の外に出ないこと |
ラゴルト — 火山の土が育てた、ゆり根のピザ
室蘭から洞爺湖へ戻り、この日の夕食は人気のイタリアン「ラゴルト」へ。
ホテルの外にある独立したお店で、夜の部を予約していきました。
開店前から数組が待っていて、予約しておいて正解でした。
いただいたのは、地元・真狩村(まっかりむら)のゆり根を使った料理です。
ゆり根のピザは、トマト・チーズ・玉ねぎ・ベーコン・ローズマリーに、ホクホク甘いゆり根がのった一枚。
生地の耳がカリッと香ばしく、ゆり根のやさしい甘さがよく合います。
ゆり根の素揚げも、ほっくりとして手が止まりませんでした。

オロフレトマトのカプレーゼもさっぱりとして、満足度の高い夕食でした。
ちなみに真狩村は、羊蹄山のふもとに広がる土地です。
水はけのよい火山性の土壌が、ゆり根や野菜づくりに向いているとされています。
ここでも、料理のおいしさの根っこに火山がありました。
| 所在地 | 北海道虻田郡洞爺湖町(ホテルとは別の独立した店) |
| 名物 | 真狩村のゆり根を使ったピザ・素揚げ |
| 備考 | 人気店。夜は予約がおすすめ |
3日目・サイロ展望台とヘリ遊覧 — 空から見て、すべてがつながった
最終日。
まずサイロ展望台から、洞爺湖をもう一度見渡しました。
高台からの眺めはやはり気持ちよく、湖の青と、真ん中に浮かぶ中島がよく見えます。

そして、この旅のクライマックス。
展望台の近くから、ヘリコプターの遊覧飛行に乗りました。
これが——本当に、最高でした。
ふわりと浮き上がって高度を上げると、それまで地上で別々に見ていた風景が、一枚の絵としてつながっていったのです。
洞爺湖が、きれいな円い形をしているのが、はっきり分かりました。
その真ん中に、中島がぽっかりと浮かんでいます。
そして湖のすぐ南に、赤茶色の昭和新山と、ゴツゴツした有珠山。

でも空から見下ろすと、湖がほぼまるい形をしていて、その真ん中に中島が浮かんでいるのが一目で分かります。
この円い形こそ、約11万年前の巨大噴火で地面が陥没してできたカルデラの輪郭だとされています。
そして円の南の縁には、昭和新山と有珠山という新しい火山が並んでいます。
「古いカルデラ」と「新しい火山」が、ひとつの視界におさまる。空からの眺めは、洞爺湖が今も生きている火山の地だということを、いちばんはっきりと見せてくれました。
テレビの映像で見ていた洞爺湖を、自分の目で、上空から見下ろす。
展望台より高く、飛行機より近い、ちょうどいい高さでした。
このヘリ遊覧が、この旅で一番の体験になりました。
| 所在地 | 北海道虻田郡洞爺湖町成香(サイロ展望台) |
| 駐車場 | 展望台に大型駐車場あり |
| 見どころ | 高台からの洞爺湖と中島。隣接の発着場からヘリ遊覧 |
| 備考 | ヘリ遊覧は天候により運休あり。事前確認を |
ハイドゥンのバーガーで締めて — すべての根に、生きている火山
旅の締めは、テイクアウトのハイドゥンのハンバーガーでした。
手に余るほど大きく、かぶりつくと、飴色に炒めた玉ねぎの甘さがじゅわっと広がります。
お肉もしっかりおいしく、添えられたポテトはホクホク。
最後まで、洞爺湖はおいしい旅でした。

2泊3日。
火山、カルデラの湖、断崖の海岸、そして空からの眺め——盛りだくさんの旅でした。
正直に言うと、洞爺湖そのものは「思ったほどかな」と感じた瞬間もありました。
でも振り返ってみると、心に残ったのはどれも、地球が動いた跡そのものでした。
畑から生まれた赤い山。
数十年ごとに噴く活火山。
噴火で寸断された一本の道。
湖の真ん中に浮かぶ火山の島。
そして、空から見た円いカルデラ。
そのすべての根っこに、「生きている火山」がありました。
帰りの飛行機の窓からは、苫小牧や室蘭、羊蹄山、支笏湖、洞爺湖、そして駒ヶ岳まで見えました。
北海道の南部が、これほど火山だらけだったのかと、最後にもう一度驚かされました。
火山は怖いものでもあり、こんなに豊かな風景と食を生むものでもある。
その両方を、自分の目と舌で確かめられた旅でした。
地質情報の参照: 産総研地質調査総合センター「地質図Navi」、国土地理院地形図、洞爺湖有珠山ユネスコ世界ジオパーク公開情報 /「〜とされている」と記した箇所は、学術的に確定した情報ではなく通説・推定を含みます。