📅 取材時期:2025年1月
砂をかけられて、首から下が見えなくなりました。
最初に来るのは、重さです。
次に、じわっとした熱。
そして少し経つと、脈が聞こえてきました。
手首、足首、太もも。
体の端のほうから、ドクドク、ドクドク、と砂ごしに響いてきます。
たしかに、そうとしか言いようがありませんでした。
それにしても、砂浜です。
海のすぐそばの砂が、どうしてこんなに熱いのでしょうか。
その答えは、この日に回った景色のなかにありました。
道の駅いぶすき — 展望台より、下の岩場が面白い
鹿児島空港でレンタカーを借りて、南へ向かいました。
指宿(いぶすき)の手前で、まず道の駅いぶすきに寄ります。
展望台があるのですが、私たちが面白かったのは、そこから下に降りた岩場のほうでした。

黒っぽい岩が海に突き出していて、そこに波がざぱーん、と打ち寄せます。
しばらく見ていると、足元の岩と、その上に乗っている層の色が違うことに気づきました。
下は黒くて硬そうな岩。
上は、砂と小石が固まったような、ざらざらした層。
おそらく溶岩の上に砂礫が積もったのだろう、と話しながら眺めていました。
本当のところは分かりません。
ただ、境目がはっきり見えるのが面白かったのです。
対岸の大隅半島は見えましたが、桜島は霞んで見えませんでした。
| 所在地 | 鹿児島県指宿市小牧52-4 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| 見どころ | 展望台の下に降りた岩場。黒い岩に波が打ち寄せる |
道の駅 山川港 活お海道 — かつおの町で、かつおカツ
お昼は、道の駅 山川港 活お海道(いおかいどう)へ。
山川港は、かつおの町です。
かつお節の産地として知られています。
私はかつおカツ定食、妻はかつお蒲焼き温たまらん丼の刺身セットを頼みました。

かつおカツ定食は1,100円で、毎日20食限定だそうです。
あらだし汁と小鉢が付いていて、レモン、ソース、味噌だれで味を変えながら食べられます。
これが楽しいのです。
刺身セットのほうは1,300円でした。
どちらも量が多く、二人ともすっかり満腹になりました。
値段を考えると、かなりお得だと思います。
そして、この道の駅の場所そのものにも、あとで意味があると分かります。
山川港は、丸い湾の内側にあります。
その湾が、なぜ丸いのか。
それはこの日の最後に、山の上から見て分かりました。
| 所在地 | 鹿児島県指宿市山川新栄町1-1 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| 食事 | 11:00〜。かつおカツ定食は毎日20食限定 |
やっと開聞岳が見えた
砂むし温泉へ向かう海沿いの道で、妻が声を上げました。

防波堤とテトラポッドの向こうに、きれいな三角形の山が立っていました。
開聞岳(かいもんだけ)です。
ここまでの道では、建物や丘に隠れてなかなか見えなかったのです。
そのぶん、目の前にすっと現れたときの嬉しさがありました。
そして、その隣に、まったく形の違う山があります。
ゴツゴツして、黒っぽくて、頂上がギザギザです。
なめらかな三角の開聞岳と並ぶと、余計に荒々しく見えました。
この山の名前は、翌日になって分かります。
山川砂むし温泉 砂湯里 — 全身で血圧計に入る
さて、冒頭の砂むしです。
山川砂むし温泉 砂湯里(さゆり)に着きました。
海に面した崖の下にある、小さな砂むし場です。
浴衣に着替えて、砂の上に横になります。
係の方が、スコップで砂をかけてくれます。
顔だけ出して、首から下は砂の中。
そして冒頭に書いたとおり、脈が来ます。
体の末端から、だんだん中心へ。
脈を、外側から順番に感じていく感覚は、初めてでした。
目安は10分と言われましたが、気持ちよくて20分ほど入っていました。
というより、私は途中で寝てしまいました。
起きたら、浴衣がびっしょりでした。
砂から出て、シャワーで砂を流して終わりです。
正直に言うと、毎回来たいというより、一回は体験してみてもいい、という感想です。
でも、その一回は、はっきり記憶に残る一回でした。
持ち物についてひとつだけ。
フェイスタオルは持参して、使い捨てにするつもりで行くと楽です。
砂で汚れますし、顔まわりに敷くのに使います。
バスタオルはレンタルがありました。
上がったあと、売店でセイカ食品のジャムモナカを買って、二人で半分こしました。
りんごジャム入りのバニラ最中で、ボンタンアメの会社のアイスです。
火照った体に、ちょうどよかったのです。
さて、ここで種明かしです。
なぜ、指宿の砂浜は熱いのでしょうか。
指宿の中心部にある摺ヶ浜(すりがはま)では、地下を80〜90℃の温泉水が海に向かって流れています。
ところが海岸の近くまで来ると、地下にしみ込んだ海水の層にぶつかります。この海水の層は塩水くさびと呼ばれ、くさびのように地下へ食い込んでいます。
温泉水はこの海水にせき止められ、行き場をなくして海岸近くで上へ湧き上がり、砂を温めるとされています。
では、その温泉水の熱はどこから来るのか。指宿一帯は、約11万年前の巨大噴火でできた阿多(あた)カルデラの縁にあたるとされています。その火山の熱が、いまも地下の水を温めている、と考えられています。
つまり、砂の下で脈を感じていたあの熱は、遠い昔の火山がまだ冷めていない熱だった、ということになりそうです。
砂湯里は伏目海岸という場所にあり、指宿中心部の摺ヶ浜とは別の砂むし場です。
すぐ下の海岸を歩いてみたかったのですが、この日は立ち入れませんでした。
| 所在地 | 鹿児島県指宿市山川福元3339-3 |
| 駐車場 | あり |
| 持ち物 | フェイスタオルは持参(使い捨てにできるものが便利)。バスタオルはレンタルあり |
| 備考 | 目安は10分ほど。売店にセイカ食品のジャムモナカ |
長崎鼻 — 黒い溶岩の磯と、いちばん綺麗な開聞岳
砂むしのあと、薩摩半島の先端、長崎鼻(ながさきばな)へ向かいました。
近くでイベントがあったようで、人が多かったのです。
それでも、岬の先まで歩いていくと、目の前が開けました。

黒い岩の磯の向こうに、開聞岳。
この日に見たなかで、ここからの開聞岳がいちばん綺麗でした。
海の透明度が高く、岩の間の潮だまりには、緑の藻が揺れています。

岩をよく見ると、縞模様が入っていました。
黒い岩と、その縞と、潮だまりの緑と、向こうの三角の山。
灯台のところまで歩いて、しばらく眺めていました。
火山としては若く、約4,400年前から活動を始めたとされています。
そして885年(仁和元年)の噴火で、山頂に溶岩ドームが盛り上がったとされています。そのため、下のほうはなだらかで、上のほうだけ急、という二段の形になった、と考えられています。
遠くから見ると、なめらかな三角形の頂上に、小さな出っ張りが乗っているのが分かります。あれが溶岩ドームです。
そして、いま立っている長崎鼻の黒い岩は、開聞岳から流れ出た溶岩が海に突き出したものだとされています。
足元の岩も、向こうの山も、同じ火山のものだった、ということになります。
| 所在地 | 鹿児島県指宿市山川岡児ケ水 |
| 駐車場 | 市営無料駐車場あり(道路脇) |
| 見どころ | 黒い溶岩の磯の向こうに開聞岳。潮だまりと灯台 |
| 注意 | 岩場は滑りやすい。イベント時は混雑する |
西大山駅と瀬平公園 — 角度を変えると、山頂のポコっが動く
長崎鼻から西へ回り込みます。
途中で、JRの最南端の駅、西大山駅に寄りました。
ホームの向こうに開聞岳、手前に菜の花。
有名な構図です。
ここでひとつ、気づいたことがあります。
924mですから、富士山のような高さではありません。
だから、ちょっとした丘や建物で、すぐ隠れてしまうのです。
そして見えるたびに、少しずつ形が違って見えます。
次に寄った瀬平公園(せびらこうえん)で、それがはっきり分かりました。

海岸線がゆるく弧を描いて、その先に開聞岳。
長崎鼻から見たときとは、山頂の小さな出っ張りの位置が変わっています。
山頂の溶岩ドームが、ちょうど目印になっているのです。
まるい山なのに、見る場所によって「顔」が違う。
この日はずっと、その顔の違いを追いかけていた気がします。
| 所在地 | 鹿児島県南九州市頴娃町郡 |
| 駐車場 | あり |
| 見どころ | 弧を描く海岸線の先に開聞岳。長崎鼻とは違う角度 |
番所鼻自然公園 — 岩場を歩いて、海のほうまで
もう少し西へ行って、番所鼻自然公園(ばんどころばなしぜんこうえん)へ。
ここは、岩場を歩いて海のほうまで出られる場所でした。

平たい岩礁に波が寄せて、白く砕けます。
その向こうに、また開聞岳。
長崎鼻、瀬平公園、番所鼻。
同じ山を、三つの違う岬から見たことになります。
海に近い岩場を歩けるのが、ここの良さでした。
| 所在地 | 鹿児島県南九州市頴娃町別府 |
| 駐車場 | あり |
| 見どころ | 岩場を歩いて海の近くまで出られる。波と開聞岳 |
| 注意 | 岩場は足元に注意。波が高い日は近づかない |
大野岳公園 — 一日で回った火山が、一枚におさまる
二日目に行くつもりだった大野岳(おおのだけ)ですが、時間に余裕があったので、一日目に繰り上げました。
翌日は雨の予報でしたから、これが正解でした。
展望台まで車で上がれます。
そこからは、360度、ぐるりと見渡せました。

左に、丸い池田湖。
右に、三角の開聞岳。
この二つが、同時に見えるのです。
そして反対側を向くと、山から海へ、なだらかに下っていく斜面が見えました。
このあと池田湖へ下る道は、両側に茶畑がずっと続いていました。
知覧茶、頴娃茶の産地です。
ここに来て、この日の景色が一枚につながりました。
大量のマグマが一気に噴き出したあと、空っぽになった地下に地面が落ち込み、そのくぼ地に水がたまった。だから湖の形が丸い、と考えられています。
そして、ほぼ同じ時期に、まわりでは地下のマグマが水に触れて起きるマグマ水蒸気爆発が続いたとされています。その爆発でできた丸い火口をマールと呼び、山川湾や鰻池(うなぎいけ)は、そのマールだとされています。
お昼に寄った山川港の丸い湾は、火口に海水が入ったものだった、ということになります。
大野岳から見ると、丸い池田湖、円錐の開聞岳、その手前の山川の湾が一望できます。
一日かけて回った火山の地形が、ここで一枚におさまるのです。
| 所在地 | 鹿児島県南九州市頴娃町郡 |
| 駐車場 | あり(展望台まで車で上がれる) |
| 見どころ | 360度の展望。池田湖と開聞岳が同時に見える。反対側は茶畑 |
池田湖 — 菜の花が満開でした
山から降りて、さっき上から見ていた池田湖の湖畔へ。

一月の末なのに、菜の花が満開でした。
黄色い畑の向こうに、湖と、開聞岳。
指宿は、菜の花の時期が本州よりずっと早いのです。
翌日は雨の予報でしたから、今日この景色を見られてよかった、と二人で言いました。
| 所在地 | 鹿児島県指宿市池田 |
| 駐車場 | 湖畔にあり |
| 見どころ | 一月から菜の花が咲く。菜の花畑と湖と開聞岳 |
さつま味 — きびなごと、揚げたてのさつま揚げ
夕食は、指宿市街のさつま味というお店を予約していました。
電話で予約したとき、対応がとても丁寧で、人気の料理は取り置きしておきましょうか、と勧めてくれたのです。
これが、ありがたいことになりました。

きびなごの刺身、1,100円。
当日はすでに売り切れていたそうで、取り置きのおかげで食べられました。
銀色の身が、花びらのように並んでいます。
見た目がとにかく美しく、酢味噌でいただきました。

そして、揚げたてのさつま揚げ、660円。
熱々で、昆布が入っていて、大根おろしで食べます。
揚げたてなので油っぽさがなく、外はカリッとしていました。
ほかに、黒豚とんこつ(アバラ肉の味噌炊き)880円、さつま汁420円、ばってら980円。
どれも鹿児島らしい味で、一日の締めにちょうどよい夕食でした。
| 所在地 | 鹿児島県指宿市湊2丁目1-31 |
| 予約 | 要予約推奨。人気料理は売り切れることがあるので、予約時に取り置きを相談すると安心 |
| 名物 | きびなごの刺身、揚げたてのさつま揚げ、黒豚とんこつ |
指宿白水館 — 広くて、お風呂まで遠い
宿は、指宿白水館の花の棟、ツインの部屋でした。
広くて、綺麗です。
そして、お風呂まで遠い。
廊下を歩いても歩いても着かないくらい、敷地が広いのです。
朝食はビュッフェで、鹿児島のものがいろいろ並んでいました。
あくまき、ふくれ菓子、かつおの腹皮、かつお味噌。
旅先の朝食で、その土地のものが食べられるのは嬉しいものです。
二日目 — 雨の魚見岳と、知覧で一服
二日目は、予報どおりの雨でした。
それでも、魚見岳(うおみだけ)の展望台へ上がってみました。
タモリさんも番組で来た展望台です。

雨でも、指宿の市街と、海に浮かぶ知林ヶ島(ちりんがしま)は見えました。
知林ヶ島は、干潮のときに砂の道でつながる島とされています。
この日も、うっすらと砂の道が見えました。
そして、ここでひとつ答え合わせがありました。
昨日、開聞岳の隣に見えた、あのゴツゴツの山。
ここで、竹山(たけやま)という名前だと分かったのです。
| 所在地 | 鹿児島県指宿市東方 |
| 駐車場 | あり |
| 見どころ | 指宿市街と知林ヶ島。干潮時は島へ続く砂の道が見える |
そのあとは、知覧(ちらん)へ。
知覧特攻平和会館を訪れ、それから武家屋敷通りを歩きました。
雨の武家屋敷通りは、石垣と生垣がしっとりと濡れていて、静かでした。
通りにある高城庵(たかじょうあん)で、一服します。
両棒餅(ぢゃんぼもち)と、茶ぶし。
茶ぶしは、味噌と鰹節に、知覧茶を注いだものです。
お茶漬けのお茶だけ、というような素朴な飲み物で、雨で冷えた体に沁みました。
昨日、大野岳から見下ろした茶畑のお茶を、こうして飲んでいるわけです。
鹿児島空港の虹
帰りの鹿児島空港で、雨が上がりました。

滑走路の向こうに、虹がかかっていました。
雨の一日の終わりに、ちょっとした贈り物のようでした。
振り返ると、この旅は一日目にぎゅっと詰まっていました。
道の駅の岩場、かつおカツ、砂むし温泉、三つの岬から見た開聞岳、大野岳からの眺め、菜の花の池田湖、きびなごとさつま揚げ。
景色と、温泉と、食が、コンパクトに一日におさまった旅でした。
そして、砂の下で感じたあの熱が、遠い昔の火山の熱だと分かったこと。
丸い湖も、三角の山も、お昼を食べた丸い湾も、みんな同じ火山の仕事だったこと。
知らなくても楽しめる景色ですが、知ってから見ると、少し見え方が変わります。
毎年行きたいわけではないけれど、忘れた頃にまた来たい。
砂むし温泉は、年を重ねても楽しめそうです。
そのときはまた、砂の下で脈を数えながら、寝てしまうのだと思います。
地質情報の参照: 産総研 地質調査総合センター「大規模噴火データベース(池田カルデラ・阿多カルデラ)」、気象庁「開聞岳」「池田・山川」火山解説、いぶすき観光ネット(砂むし温泉) /「〜とされている」「〜と考えられている」と記した箇所は、学術的に確定した情報ではなく通説・推定を含みます。